●ワタシが理解できる人、理解できない人
AさんとBさんという2人がいる時に、「Aさんの発言をBさんは常に誤解なく理解し、その逆もまた同じ」という状態を「コミュニケーション成立比率100%」と定義したとしましょう。
“理解する”というのは“同意する”という意味ではなく、“分かる”という意味です。「自分は異なる意見をもっている」場合でも、相手の言い分が理解できれば、コミュニケーションの第一歩は成立しています。また、単語や用語が分からない場合に、その意味を聞き返すのも問題ありません。用語を説明してもらえば、コミュニケーションは成立します。
さて、みなさんには“常にお互いの発言を誤解なく理解できる”「コミュニケーション成立比率100%」の人は何人いますか? 親子や友人、恋人や配偶者、同僚や上司部下などにそういう人は多数存在するでしょうか。
コミュニケーション成立比率で人をグループ別に分けてみるとこんな感じになります。
1.90%以上
日常会話、業務上の会話に加え、感情や感覚の説明でも、ほぼストレスフリーでコミュニケーションが成立する。擬態語、擬声語の意味のとらえ方も、受信者の理解は発信者の意図と極めて近い。前提を省略した会話も問題なく成り立つ。
2.70%~90%
日常会話のほかにも、適切、効率的に協業する上でストレスを感じない。ただし、感情や感覚の説明、擬態語や擬声語を用いたコミュニケーション、前提を省略した会話については、時に誤解が生じる。
3.50%~70%
日常会話には問題はないが、一緒に仕事をするにはお互いに注意深いコミュニケーションが必要。業務の場合は、話すだけではなく、文章化や図解による確認が役に立つし、時には必要となる。
4.30%~50%
日常会話は成り立つが、仕事や議論では相手の言っていることを理解するのに時間と手間がかかり、(お互いに)フラストレーションを感じる。互いの感覚の違いから、頻繁にコミュニケーションミスが生じる。
5.20%~30%
日常会話においても、さまざまな誤解が頻繁に生じる。
6.20%未満
相手の言っていることが理解できないことが多い。自分の言いたいことも伝わっていないように感じる。思考構造が違うと感じる。
●コミュニケーション成立比率が高ければいいわけではない
時々、営業員がお客さんに対して、あたかも「私は、お客様とのコミュケーション成立比率がとても高いんですよ!」というように振る舞っているのを目にします。一種の営業テクニックですね。合コンでもよく見ます。端から見る限り、「全然コミュニケーションが成り立っていないよね」と思えるのですが、本人は必死で「すごく理解し合えている感じ」を醸成しようとしています。こういうことが起こるのは、“分かりあえることは望ましいこと”ととらえられているからですよね。
では、この比率が高ければ高いほどいいのかというと、実はそうでもないのです。ちきりんも大学生のころ、この比率がとても高い人と出会いましたが、その人と話すといつも居心地の悪い思いがしました。
長年連れ添った夫婦や血を分けた親子ならともかく、初対面に近い人が自分のちょっとした発言にも“その意味”を正確に読み取ってしまうのは、心の内まで見透かされている気分になるものです。結局彼とは何回か朝方まで飲みながら話をした後、疎遠になってしまいました。
友人にしても恋愛相手にしても、必ずしもコミュニケーション成立比率は最初から高い方がいいわけではないのです。分からないものを分かろうとするプロセス、コミュニケーションの成立比率を高めていくプロセスこそ、人間関係を作るという一番楽しい部分だから、そこを飛ばして分かり合えるとむしろ “気持ち悪い”となるのでしょう。
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